公開質問状

  

後藤順殿

 

この度『詩と思想』6月号に、拙著『アナンジュパス』の書評を書いていただきまして、まずはお礼申しあげます。

 ただし今回の書評の内容につきましては、下記のような疑問・反論がございます。

 貴方の書評が『詩と思想』にて既に公開されているので、わたしの質問状も「公開質問状」とし、わたしのホームページにアップすることにいたします。(https://poetry-universe.jimdo.com/

  

    書評全体について

まず貴方の書評全体を通じて、拙詩集のテキストがあまり読み込まれておらず、表層的な印象で書かれている感があり、そしてそれは、貴方が持論を述べるための単なる手段に使われているように思われてなりません。

 それと反対にわたしのTwitterは、非常によく読まれているように思われました。言い換えれば、詩集テキストの読解不足を補うために、わたしのTwitterを曲解し、貴方の持論を展開しているように思われます。

 その結果、拙著のテーマについては一言も言及されていません。『詩と思想』の当該欄はあくまでも書評欄ですから、まず対象テキストをもっとよく読み込み、持論への我田引水は控えた方がよかったのではないでしょうか。

  

    中傷と思われる個所

その中で特に誹謗中傷と思しき箇所があります――

「一年かけて粗原稿を創作し、二か月で五十回近い推敲を重ねたとか。著者はある新人賞を受賞してから、詩壇という幻想界に目覚めたらしいが」

という箇所です。

確かに2017年に第三詩集『ふりーらじかる』で中日詩賞新人賞をいただきましたが、それで「詩壇という幻想界に目覚めた」という事実はまったくありません。わたしの元来の計画では、詩壇や詩賞とは関係なく、2013年より毎年あるいは一年おきに詩集を上梓する計画で、すでに第五詩集まで出版しています。その際に「一年かけて粗原稿を創作し、二か月で五十回近い推敲を重ね」ると言うのは、けっして「詩壇という幻想界に目覚めた」からではなく、純粋によい詩を書くために毎年行っているルーティンワークに過ぎません。従いまして、上記箇所は、わたしのTwitterの曲解に基づいた中傷と言わざるをえません。

 なお付言するなら、詩を書いている者にとって、多少なりとも詩壇や詩賞を意識するのは、別に非難されることではなく、ごく自然な態度だと思います。

 

    詩観上の問題点

貴方は、欧米のカタカナ語に対して、かなり偏見を持っているようで、知らないカタカナ語があると、「日本語の詩として成立するのか疑問を呈したい」と言っています。そして、「詩が今日衰退している大きな一因は、普及していない欧米語をカタカナに置き換える悪弊にあるのではないか」とまで書いています。このような詩観は、詩語の範囲を自ら狭める「言葉刈り」の傾向があるのではないでしょうか。

わたしとしては、詩語はもっと自由に、欧米語由来のカタカナ語も古語もどんどん使っていいと思っています。世の中で使われている言葉は、特に欧米カタカナ語はものすごいスピードで日本語を浸食しており、そのような言語のグローバリズムという傾向を無視して、狭い詩語の世界に閉じこもる方が、現代詩の閉塞化、狭量化に繋がるのではと危惧しています。当然ながら自分の知らない欧米カタカナ語を使うことを否定したり、他の詩人の使っている詩語に対して「言葉狩り」しようとしたりする権利はだれにもありません。

なお書評の中で「ヘブライ語とかペルシャ語など」があたかも拙著の中に使用されているかのように書いてありますが、拙著に出てくるカタカナ語は、もっぱら主要欧米語だけであり、ほとんど簡単に調べることができるものばかりです。

 

    ルビ、註、読者などについて

書評中に「不必要なルビがふってあるのが、妙に不可解だ」とありますが、わたしは中高生を含めた幅広い読者層を想定しているために、難しい漢字にはルビをふることにしています。

それに反し、「一般に使われていない欧米語なり古語を使う場合、詩の最後に(註)」を付けないのは、それらがネットやスマホや辞書で簡単に調べることができるからです。貴方は「もっと読者を意識してほしい」と指摘していますが、わたしはこのように読者を想定しており、貴方との違いは読者を意識しているかいないかではなく、想定する読者層の相違からくるものと思われます。

もし詩篇の中の一、二語がわからなくても、読者が詩篇全体から感銘を受ければ、多少面倒でもわからない語を調べてくれるとわたしは信じています。

 

以上貴方の書評に対し、率直に疑問・反論を述べました。

貴方におかれましては、ご再考の上、ご回答いただきますようお願いします。

なお本状が公開の形をとっていますので、返信いただきましたご回答は、わたしのホームページにアップさせていただきますのでご承知おきください。

 

2019623日 舟橋空兎

 

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後藤順氏よりの回答

メッセージ: 公開質問状について

 

本日、手紙が届きました。
まず、書評欄への依頼は、「詩と思想」編集委員会からで、自ら、この詩集を選択して書いたものではありません。
までの質問内容ですが、ここの質問へ反論ができるほど、著者を納得させる材料を持ち合わせていません。お許しください。
著者のこの詩集への情念はとても理解できますが、書評は一個人の感想であって、著者が反論する気持ちはもっともだと思いますが、時間は過ぎていきます。
ただ、言えることは、この著者が今後どのような詩集を上梓し、詩の世界を広げてゆくのか。それを期待するしかありません。
たとえば、詩集賞などで審査員から満票を得て受賞した詩集はめったにありません。詩に対する考え方が、ここによって違うからです。受賞した詩集が、その著者にとってどうなのか。本当に悦んでいるのか。あるいは新しい悩みがうまれるかもしれません。
今回の書評も、ほかの方が書けば違った内容になるかもしれません。

この詩集が、どこかの詩集賞を獲得すれば、賛辞を贈りたいと思います。
公開質問状を読んだ感想は上記のとおりです。